1話目  通りすがりの。

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  店を回るのは三件目。  いまどきだからネットで取り寄せてもよかったけど、実際の見た感じや質感を確認したくて、俺はインテリアショップを回っている。一階から五階まで、家具・家電・生活用品の全てが揃う大型店舗だ。  同居の恋人には『阿川はヒマなのか、時間の無駄だ』と一言で済まされそうだが、長く使うものだからそこは譲れない。  というか、そもそも頑丈な俺よりよっぽど智に必要なものだと思う。秋になって、さっそく誰より先に風邪をひいた智に、俺はしみじみ暖房対策というものが必要だと感じている。  しかしこのあったかグッズというやつはきりもなく売っており、オイルヒーターや石油ファンヒーター、さらに床マット、ガウンや鍋まで目白押しに置いてある。  今年引っ越したばかりで、冬ごもりの道具はほとんど足りていない。だから、ここで一気に揃えようという訳だが、簡単そうでこれがなかなか悩ましい。  決まらないのは、探しているそばから他の商品が目に入ってくるからだ。  俺一人なら不要の品ばかりだが、体の弱い同居人の事を思えば、どれもこれも必要な気がするから困る。(その本人が一番無頓着なので、余計に俺が考えるしかない)  電気毛布……んー、いるかな、これ。  寝具売り場で、俺はさっきから決断しかねている。そもそも「ウルトラ長毛・極暖敷パッド」を買うべきなのか、いっそ「かるぽか羽毛布団・はばたき」を買うべきか。  足の先が冷えやすい智に湯たんぽは必需品か。いっそエアコンをハイパワーなものに増設すべきか。しかし智だけならともかく、俺も一緒に寝るとなるとちょっと…… 「それ暑すぎ」  え?  思ったことを言い当てられた気がして、俺は思わず声の方を振り返った。
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