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「どこ行くんだい!」
「勉強!」
学生にして唯一の切り札を使う。
実際、講義の出席率が思わしくない分、課題だけは完璧に提出していおかないと進級が危うい。それは婆さまもわかっていて、勉強と言えば多少は静まる。
俺は離れの自室で、通学用のカバンを開いた。
「あれ」
見慣れた背表紙がない。
教科書や資料の隙間を探してみたが、埋もれているわけでもなかった。全部出してみたが、やはり見つからない。普段、忘れ物などしたことがないから紛失を信じ切れず、カバンの中身を逆さにぶちまけようとして、ようやく思い至った。
「あ……」
あれだ。
俺は赤面した。今日、図書室で勉強していた時、筆談のやりとりのあとで委員長が荷物をひとまとめに自分のカバンにぶちこんだんだった。
その時の委員長の勢いがまざまざと蘇り、俺は思わず口元を押さえた。
まるでここ数か月分の空白を埋めるように、何度キスされただろう。
唇だけじゃない、それこそ躰中のあちこちに余韻がある。しかもそのまま教室の床でコトに及ぶなんて、優等生で通る俺たちにしたらとんだ御乱行だった。
委員長って、ああみえてけっこう、情熱的っていうかなんて言うか……
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