5話目  旅先での。 

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「それと、あの、大口の仕事のご紹介も頂きまして、ありがとうございます」 お辞儀をして顔を上げる。婆さまは手の中で扇子をパンと叩いた。 「別に、私は間に入っただけだよ。それにしても……ねえ。見事だ」 婆さまは俺の礼などどうでもいいように流して、嘆息した。 「なんだよ、一度和真見てみたいっていうから連れてきたのに、そんなんじゃ会話になんないだろ」  涼太は祖母の家の気安さから、子供みたいにミカンの皮を積み上げると、コタツで寝っ転がった。  涼太が浅野の家を出るにあたって、婆さまはある程度の資産を生前分与しようとした。だけど、涼太は断固として受け取らなかった。  その埋め合わせをするように、婆さまは起業に伴って自分の顧客を紹介してくれた。不動産関係者や、建築関係。この業種は設立や管理に絡んで、植木や生花に一定の需要が見込める。  会社にとって仕事量が安定するというのは何物にも代えがたい。  涼太には言わなかったけど、うちは特殊な植物を扱うのが本分で、かなり特異な仕事だから、実際にやっていけるか心配だった。  涼太は写真家の先生のアシスタントをしていた伝手で、撮影用の季節はずれの樹木や花、イベントのコンセプトに合った植物の調達には、声をかけてもらえる。だけど、それは不定期だから、婆さまの紹介は本当にありがたかった。  一緒に仕事をはじめてみると、涼太の人懐っこさや、他人との距離の詰め方の上手さは、学生時代よりさらに磨きがかかっていた。気難しいクライアントを陥落させ、仕事先でも、さらなる人脈作って仕事をとってくる。その逞しさはいかにも涼太だった。
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