4話目  訪ねてみての。

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4話目  訪ねてみての。

「旅行? 冬休みに? 馬鹿をお言いでないよ」 俺が、この婆さまをキライだと思うのは、全く言葉に遠慮がないところだ。 「みっくんだってもう何年か一緒に仕事してわかってるだろう。どの時期より挨拶まわりで忙しいのに、いつそんなヒマがあるんだい」  婆さまはスケジュール表をわざわざ俺の前でちらつかせる。それを百も承知で、この俺が丁重にお伺いを立てているのを承知の上でだ。  例年、浅野家では年末年始に取引業者全てに、こちらから挨拶に出向くのが習慣になっている。取引相手は不動産関係がメインだが、積み重なった業者の数を割り振ると、一日に複数の会社を回らないと到底終わらない強行軍だ。  そこで配る手土産の発注、移動の旅客券の手配、相手方とのスケジュール調整と、秋も終わりの頃から準備は始まる。  婆さまが一年で一番張り切る時期でもある。  婆さまにとっては、自慢の孫(俺の事だ)を連れて、連日の華やかな外出になり、楽しくて仕方ない風物詩なのだろうが、俺にとっては迷惑でしかない。  受験が終わってすぐ、俺は本格的に仕事の手伝いをするようになったが、それ以降、毎年12月から1月にかけてのこの時期は、悪夢の忙しさだった。  世間はクリスマスだ正月だとはしゃいでいるが、とにかく出歩いて頭を下げ続けた記憶しかない。 「全部じゃないよ。一泊二日の二日間だけ。そもそも、ガン首揃えて行かなくったって、挨拶なら総代の婆さまがいれば十分だし……」 食い下がってみる。だが、その俺の不満さの十倍の気迫で却下された。 「駄々をこねるんじゃないよ。みっくんは次の浅野だろう!」
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