2話目  その次の。

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2話目  その次の。

 二度目ってどうすれば良いんだろう。  涼しい顔の委員長を見てると、焦ってるのも求めてるのも俺ばっかりみたいな気がする。じれったい委員長に自棄を起こし、暴走した俺を止める形で抱きあって、もう数か月。  あのひととき、十分過ぎるほどの体温も言葉を貰ったけど、あれは夢だったんじゃないかと思うほど、委員長の態度は変わらない。どころか触れない。  俺は、体の関係を持ったら、もう一気に二人の距離は縮むんだと思っていた。  委員長が使ってる教科書には、全て綺麗な四角張った字で『持田洸』と書いてある。その几帳面さと融通のきかなそうなかっちりした文字は、委員長そのものだと思う。  俺たちが会う場所といえば、相変わらず大学の中がせいぜいだった。  それは俺が家業である浅野の仕事にしばられてるせいで、委員長に非はない。婆さまは遠慮なく休日も放課後もスケジュールをぶっこんでくる。まるで俺と委員長を会わせまいとしているようだ。  委員長も委員長で、せっかく時間が取れても、行き先は相も変わらず、水族館だの博物館だの、まるで小学校の遠足で進歩がない。 「どうした、瑞樹」  思考を辿りながらくるくるとシャーペンを指先で回していたら、委員長が顔を上げた。高校時代、三年間も俺の家庭教師をしていたから、委員長は俺の癖を熟知している。 「集中しろ。あと少しだろ?」  低い声で注意されて、俺はむくれた。  委員長はすぐに資料に視線を戻す。短く切った黒い髪は、出会った頃からずっと同じスタイルだ。伸びてきたな、と思う間もなくすぐに切りそろえられる。  俺はその髪が、案外柔らかく、触れば心地いい事を知っている。胸にキスをされた時、思わずその頭に腕をまわして抱きしめた。俺はその間ずっと、羞恥で引きはがしたいような、もっとぎゅっとくっついていたいような葛藤と戦っていた。
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