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丘の上にある学校から帰るところだった。あるものを探していて遅くなったので、夏場だというのに空は深い蒼に染まっている。
俺はその時焦っていた。
自転車を漕ぎ続け、ただひたすらに先を急いでいたんだ。
急勾配の緩やかなカーブを、ブレーキもかけずに下っていく。いや、ブレーキがかからなかったんだ。
「おいおいおいおい!」
このカーブの終わり際、ヘッドライトが近づいてくる。カーブが終わると平坦な道になるが、突き当たる道は見通しが悪い。このカーブからその道に出る時は、徒歩だろうが自転車だろうが車だろうが、一時停止をして確認しなければかなり危ない。
それなのに、俺の自転車は言うことをきいてはくれなかった。
何度も何度もブレーキを握る。しかし、スカッと、キュッキュッと、そんな虚しい音しか聞こえてこない。スピードが出すぎたせいか、風の音でそんな虚しささえ聞くことができなくなっていた。
涙が風で流れていく。
ヘッドライトが近付いてくる。
ヘッドライトに近づいていく。
「頼むよおおおおおおおおおおおおおおおお!」
足を地面につく。靴が擦れ、すぐに足の裏が熱くなった。
祈るような気持ちで思い切りブレーキを握った。その時だった。フロントのブレーキだけが反応した。
前輪だけにブレーキがかかると、ジャックナイフ状態でふっ飛ばされるのだと思っていた。けれど、ここまでスピードが出ていると止まってはくれない。
ブレーキをかけたことで、アスファルトの上を前輪が滑った。よろけながら、俺は坂の終わりに突っ込んでいく。
右を見れば、目を覆いたくなるほどの光が眼前に広がる。あまりの光量だったが、俺は目を閉じることができなった。
「嘘だ」
そう呟いた瞬間、俺の意識は途絶した。
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