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「悪いなんて言うもんか、私も気に入ったし」
「おうけい、じゃあまた脱いでくれ。支払いしなきゃ」
「お金払わないと着られない? このままじゃダメ?」
「このままって、買ったものすぐに着て帰るのってなんか恥ずかしくない?」
「全然? 私はこの世界で生まれたわけじゃないしそういう感覚はよくわからないからね。それに誰に見られたからって、見られた人にまた会う可能性は低いんじゃない? ここに来るまでもそうだったけどこの世界は人が多いもの」
「いや、まあそうなんだけど」
「よしじゃあ決まり」
と、一人で歩き出してしまった。
彼女の後ろ姿を見ているとこっちまで嬉しくなってしまう。可愛いし、フレイアが彼女だったらいいのにな、なんて考えてしまった。
その後、レジを通す時にちょっと苦労したのは言うまでもない。だって値札が服についてるんだもん、当たり前だよね。
買い物をして、小さなカフェでお茶を飲んで、フレイアの気が済んだところで帰宅した。
「疲れたねー」
「誰のせいだよ。いいか? 俺と双葉の会話が聞こえたらジャンプして二階に上がるんだぞ?」
「大丈夫、まかせておいて」
二人して玄関から入るわけにはいかない。俺が玄関から入って双葉の気を引く、その間にフレイアが俺の部屋のベランダに上がる。俺が出かける時にはいなかったけど、さすがに夕方だから帰ってきてるだろう。
「ただいまー」
案の定鍵はかかっていなかった。
が、ドアを開けた瞬間に鉄の匂いが鼻先をつついた。同時に臭う強烈な生臭さ。
心臓の鼓動が強くなった。
ドアが完全に開くよりも前に血の跡が見えた。玄関から、おびただしい量の血が床に垂れている。それは風呂場へと続いていて、そこでようやく現状を理解した。
「……っ! 双葉っ!」
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