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両親はいない。それならこの血を流したのは誰だ。考えるまでもない、一人しかいないじゃないか。
「双葉! 双葉!」
床に広がる血液に足が取られた。滑って転んで服が汚れた。でもそんなことを気にしている場合じゃない。
脱衣所に入る。息が苦しくなくほどの血の臭い。床だけじゃなく、入り口まるごと、燃えるように真っ赤になっていた。
その頃には、もう外は暗くなっていた。そのため風呂場の中がどうなっているのかわからない。電気をけようとしたが、脳のどこかでそれを拒否した。
心臓の鼓動が全身に回る。飛び出してきそうだった。
手をかけて、風呂場のドアを開けた。
ガチャリという音と共に、見たくない光景が目に飛び込んできた。
「そんな……うそだ……」
あまりにも現実離れしていて、夢というには現実的すぎた。
双葉と一緒にいた時間が反芻されるようだ。一緒に遊んだこと、一緒に風呂に入ったこと、一緒に寝たこと。俺が叱ることもあったけど、じょじょに俺の方が叱られるようになっていった。それも嫌じゃなくて、むしろいつまでも仲がいいことが嬉しく思っていた。小さい頃も可愛かったけど、大きくなるにつれて美人になっていった。メガネも似合っていたし「可愛い」と言うと赤くなる。そんなところも好きだった。
そんな可愛い俺の妹は無惨な姿になってしまった。風呂場の壁に貼り付けられて、内臓を腹から垂らしていた。
「あ、ああ……」
両手で頬を覆う。可愛かった顔がぐちゃぐちゃだ。口なんてこんなに裂けて、目まで潰されて。目から垂れてくる血が涙のようだ。
「なんで、なんでだよ……」
服はボロボロで、小ぶりの乳房が片方切り取られていた。
「おにいちゃんて、呼んでくれよ……」
手足の指が切り取られていた。よく見れば、排水口に詰まっている。
俺のせいか、俺のせいなのかよ。俺が死ねばこんなことにならなかったとでも言うのかよ。
「誰のせいだよおおおおおおおおおおおおおお!」
双葉の身体を抱きしめた時、暖かな感触が腹部を満たしていく。
「あれ……?」
気がつくのが遅れた。
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