〈actuality point 2〉 One loss

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〈actuality point 2〉 One loss

 水中から光に向かって浮上していく、そんな感覚。身体が浮遊感に包まれて、俺は大きく息を吐いた。 「はっ……!」  目を覚ます。ガタガタという音と、馬車用の柔らかいサスペンションが身体を揺らした。 「馬車の、中か」 「そうみたいね」  隣を見ると、フレイアが薄く笑っていた。 「大丈夫か? 汗だくだぞ?」 「二回目だけど、キツいわね。まだお腹が痛むわ」 「いろいろ、申し訳ないとは思うよ。でも今はそれどころじゃなさそうだ。落ち込んでる時間も、後悔してる時間もなさそうだ」 「結構冷静なのね」  そう言われて頭に血が登った。  握りこぶしを床に叩きつける。ジンジンと、拳が痛む。 「な、なに――」 「冷静なわけじゃねーんだよ! 仕方ねーだろ! ただじゃ戻れねーんだよ! こんなわけわかんない世界なんぞ知ったことか! 今すぐにでも帰って双葉を助けたいんだよ俺は!」  脚を曲げ、両手で顔を覆った。 「どれだけアイツと一緒にいたと思ってんだよ。お兄ちゃんお兄ちゃんって、ずっと俺の後ろをついてきたんだよ。信頼できる男ができるまでは、俺がアイツを守ってやるんだってずっと生きてきたんだよ。でも守れなかったんだ。俺は死ねば戻れるけど、だとしてもアイツに痛い思いをさせちまったんだよ。あんなふうになって、どうやって冷静でいろってんだよ……」  馬車には俺たちの他にも何人かいた。でも、その人たちのことなんて考えられない。自分の気持ちを整理するので手一杯だ。フレイアを巻き込んだことも悪かったと思ってる。でもそれでさえ彼女に謝れない。そんな自分がイヤでイヤでしょうがない。誰も守れない、誰にも謝れない、俺は一体どうすりゃいんだ。  そうやって誰かに答えを求めてしまう自分が情けなくて、情けなくて涙が出てきてしまう。 「ごめんね。私、まだイツキのことよくわからないの。イツキの趣味も特技も知らない。イツキが好きな食べ物も、嫌いな食べ物も知らない。どこまで許容できて、どれくらい常識があって、どれだけ弱いのかもわからないの」 「……知ってる」 「だから、ごめんね」 「……いいよ、俺こそ、ごめん」  一応謝れたけど顔は上げられなかった。
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