オウム

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「そこを歩く少年。君だよ、君。灰色のパーカー、ジーンズ、黒いスニーカーに少し似合ってない茶髪の君」  僕は少年じゃない、と言い返そうと振り返った午前八時。太陽はまだ眠たそうに眼をこすっている。振り返った僕の目に映ったのは、道路、車、ファミリーレストラン。いつもと何一つ変わらない風景。   「上、もう少し。街路樹の上」  声は僕の視線を誘導するように囁き続ける。僕は操り人形のようにその言葉通りに動く。視線の先にいたのは赤いオウム。 「誰かのペットが逃げたのかな」  その程度にしか考えず、また歩き始めようとする。しかしそれを止めるようにオウムは僕の肩に止まる。そして耳元で大きな声を出す。 「人の話は最後まで聞けよ。全く人間ってやつはどうして自分勝手なんだ。さっきだって黄色い帽子に自分の図体ぐらい大きなカバンを背負ったやつらに石をぶつけられそうだったんだぜ」  はっきり言おう。僕は今すぐにこの不遜な鳥を叩き落としたい。動物愛護が何だ。こいつはフライドチキンになっても文句ないだろう。 「頼みがある。な、人間のお前じゃないとできないことだ。僕は御覧の通りオウムだし、つまりその、人間社会では生きづらいんだよね」  鳥は話しを続ける。僕が一切会話しようとしていないのに。僕はひとまず一度家に帰ることにした。道路の真ん中で鳥と話すなんて少し頭のおかしな奴と思われても仕方がない。僕は鳥のくちばしを押さえ黙らせると自分に言い訳しながら家に戻る。  大丈夫、今日の講義は受けなくても問題ない、はず。 「で、何さ。あんたは何が言いたい?というよりも僕はオウムが人間の真似だけでなく完璧な会話ができるなんて初耳なんだけど」 「そりゃそうさ。僕はオウムの中でも特殊だからね。それよりも僕の名前を聞かないのかい」 「なんだ、名前なんてあったのか。どうせ大した名前じゃないだろう」 「いや、僕の名前はオウムの中じゃかなり高貴とされているね。聞いて驚け、僕はトメオ‐αだ。トメって呼んでくれ」 「もっとペットみたいな名前だと思ってた。ぴーちゃんとか鳥吉とか」 「そんな貧乏くさい名前じゃない。それで?」  トメはお前の名前は何だ、と言わんばかりに嘴を突き出してくる。 「僕は穂積星斗。みんな僕のことをほしって呼ぶけど」  ほし、ほし、ほし、とトメは何度か呟くと頷いた。
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