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昼間には学生や親子連れの楽しそうな声が広がる街も、ネオンが輝く週末の夜にもなれば雰囲気を一変させる。
煌びやかな服を身に纏った若者がそこかしこで群を作る中をするすると抜け、律は大通りから外れた脇道へと歩みを進めた。
光の届かない小道は表と違い、怪しげな雰囲気を醸し出す男達が屯している。
靴音を響かせ歩く律を一斉に振り返り、しかし即座に目を逸らし道をあける彼らを素通りし、律はOPENの看板が下げられた黒塗りの扉の中へと入っていった。
「リツさん、ちわッス」
「和雅と誠也は?」
「カズさんは奥に、セイさんはまだっす」
「分かった」
扉を開けたすぐそこにいる男数人が頭を下げるのに手をあげて応え、奥へと進んでいく。
スポットライトが照らす店内は男達がグラスを傾け談笑していたり、女達が踊ったりと賑わいを見せていた。
来栖和雅のチームが拠点としているクラブだが、敵対チームかその関係者でなければ比較的誰でも自由に出入りができる。
たまにスパイのような人間が出入りしていることもあるが、わざとチーム内の情報を流して泳がせては返討ちにし、いたぶり楽しむのが和雅の性質の悪い楽しみ方なので、クラブとしても余所者大歓迎の空気を出していた。
露出の高い派手な女に声をかけられるのを笑顔でかわしながら店の奥、限られた者だけが入ることを許されているVIPスペースへ律が足を踏み入れれば、2人の男が早速近づいてきた。
「リツ、新入り」
「…和雅には?」
「もう話した。先週来なかったからお前が最後」
煙草を燻らせた男が顎で示した後ろ、緊張した面持ちの金髪男が立っていた。
ハリネズミのような髪型に、律の目が生え際から先端へと動く。
「こいつ、セイの下に先週から入った」
「ふーん」
「知ってんだろうけどウチのナンバー2のリツ、挨拶しろ」
「う、うっす。自分、セイさんに憧れて入りましたっ、よ、よろしく、お願いしますっ」
勢い良く下げられた頭、逆立った髪が刺さりそうな気がして律は思わず1歩後ずさった。
煙草の煙を吐き出した男が笑うのを一睨みし、新入りだという彼に頭を上げるよう促す。
「何かのときは俺や和雅が指示出すけど、良い?」
「もちろんっす。自分ずっとこのチーム入りたいって思ってて、今リツさんと話せるのも夢みたいっす」
「…まぁ、よろしく」
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