親衛隊員のその人は

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珀凰学園第一高等部の学生寮、2年と3年が混在するフロア。 ビニール袋をガサガサ鳴らしながら、綾城律(あやしろりつ)は背筋を伸ばして廊下を歩いていく。 突き当たりのエレベータがポンという音と共に開き、見知った人物が中から出てきた。 「こんばんは、隊長」 立ち止まってにこりと笑った律に気付き、生徒会会長親衛隊隊長―沖野泉(おきのいずみ)も微笑んだ。 「綾城先パイ、こんばんは」 「隊長、今日だったんですね」 乱れた服に上気した肌、気だるげな表情が先ほどまでナニをしていたのか明確に語っている。 律はこめかみに青筋を浮かべそうになるのを必死に我慢して、至極穏やかな口調で問いかけた。 「うん、替わってもらったの。休日は来栖様に会えなくなっちゃうから、週の最後は僕を抱いてもらいたくて」 「…ふふ、隊長は本当に来栖会長がお好きなんですね」 「当たり前じゃない。本当はお相手するの、僕だけでいいと思っているよ」 律が柔らかい笑い声の奥で「あの下半身野郎」と罵っているなんて微塵にも思っていないだろう、泉はうっとりと呟いている。 あのチャラけた馬鹿のどこがいいんだ――とは、心の声。 「会長にばかり取られてしまうと、隊長のファンが悲しみますよ?もちろん俺も含めて」 「もーうまいよね、綾城先パイ」 律のような見目麗しい人間に好意を持たれるのは気分がいいのだろう。 頬を染めて満更でもないと言った風に微笑む泉に律も笑顔を返す。 「そういえば先パイはどこかに行くの?」 「はい、友人の部屋に遊びに」 「そうなんだ。じゃあ、また月曜日にね」 「えぇ、おやすみなさい隊長」 上機嫌で自室へと向かう泉を見送り、扉が完全に閉まったのを確認してから律はくるりと振り返り早足で歩き出した。 エレベータの上ボタンを些か乱暴に押し、開いた扉の向こうへ素早く乗り込む。 目的の階を押す為に扉側を向いた律の眉間には深い皺が刻まれていた。
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