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仮面を剥いで
学園中にとって衝撃となった和雅と誠也の後夜祭パートナー指名から一晩明けた朝。
鏡の前で律は唸り声をあげていた。
「…………変」
制服を気崩した自分の姿がどうにもしっくりこないのだ。
学校内で素を出すなんて小学校以来していない上に、制服姿ではずっと『如月律』と『綾城先輩』でいたのだから当然かもしれない。
元々制服を大きく気崩そうとは思ってない律なので、やるといってもせいぜいネクタイを緩めにつけるのとボタンを2~3個外すくらいだ。
しかし今まで学園ではつけていなかったアクセサリーをつけていることも手伝ってるのか、律自身鏡に映る自分の姿がどうにもおかしなものに見える。
和雅達との関係を明かしたのでもう偽った姿でなくてもいいのだと、試しに昨夜の夕食時に律はそれまでの服でなく、本来着慣れている私服を着て食堂に行ってみた。
その結果、素の律を知っている生徒達は笑って声をかけてくれたのだが、他の生徒達は皆で示し合わせたのかと思うくらい目も口もあんぐりと開けて律を凝視してきたのだ。
上下黒ベースの服など寮では一度も着ていなかったのは確かだけれども、あそこまで驚かれるとは律も思っていなかった。
どれだけ品行方正な『綾城先輩』という偶像が出来上がっているのか、考えただけでもげんなりしてしまう。
本音を言えば自室に引きこもっていたいところだが、この制服姿を見せることで『綾城先輩』を完全に壊したいと思っているので、律に休むという選択肢はない。
自分の姿にむずかゆくなりつつも、意を決して律は部屋のドアを開け廊下へと踏み出した。
「おはよう、律」
数歩先の壁に寄り掛かっていた幸也が笑顔を向けてくる。
「おはよう。上木は?」
「先行ってもらった。巻き込むだろうから」
賢明な判断をしてくれたらしい幸也は律が近づくと、上から下まで眺めてから可笑しそうに笑った。
「夜の律見てるみたい。変な感じ」
「俺も違和感すごくって」
「ははっ……あ、香水も?」
「なんか、これくらいしないと昼の顔作りそうなんだよ」
首辺りで匂いを確かめている幸也に律は肩を竦める。
香水もアクセサリーも、律でいられる街ではいつもつけているものだ。
素の姿を見せるならばこれらをつけていないとどうにも落ち着かなかった。
今までの『優等生』からは随分な変化だが、夜の姿に近づけないと『綾城先輩』が出てきてしまいそうになる。
親衛隊をはじめ周囲の人間に律本来の姿を見せるのと同時に、律自身が『優等生』の皮を剥すための装備のようなものでもあった。
ブレスレットと腕時計を嵌めている左手に視線を落とし、律は既に疲れたような溜息をこぼす。
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