異常な街

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……。 ……。 駅を降りると、背景に広大な自然の広がる目的の街が見下ろせた。駅が山の上に立てられているからか、春の風にしては少し冷たい。 とんとん、と背中をつつかれて僕は振り返る。音無ちゃんが明るい笑顔を見せながら、ホワイトボードをかざしていた。 『一緒に行けて嬉しいです』 「だね、まさか同じマンションだったとは思わなかったよ」 電車で一頻りアニメの話で盛り上がったあと、街の何処に住むことになるかを二人で地図を出しあって確認したのだ。 すると、どちらも行き先が同じであることに気が付いた。 『同じタイミングで呼ばれて、連番で部屋を決めているのかも知れませんね』 「引っ越しのタイミングが同じ日な辺り、可能性は高そうだな」 音無ちゃんと手を繋いで坂道を下る。手を繋ぎたいと言ったのは彼女の方からだ。曰く「安心するから」らしい。 人に触れていないと、忘れられるような気がして怖いのだという。この辺りは過去の出来事も関係するのだろう。僕は何も詮索することはなく、音無ちゃんのしたいようにギュッと手を繋いでいる。 それに、音の出せない彼女を見失ってしまえば、僕が探すのは骨が折れるだろう。良く人とぶつかっていたらしいし、一人では危なっかしい。 もう既に、音無ちゃんは僕の庇護欲を面白いくらいにくすぐっている訳である。
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