白い塔

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……最早スキャンダルか何かのように取り沙汰されていた話だ。 先生が欠点持ちだなんでどういうことだと、ニュースがその人を晒していた。 その先生は欠点があったこと以外、温厚な普通の人間だった。どちらかと言えばその人の受け持つクラスは他よりも纏まりが良くなると言われるくらいには、先生としての実力のある人物だった。 ……僕はそれを、恐れられたからだと思っている。 報道されていた欠点は"思考警察"。周囲の思考の全てを知ることができる代わりに、誰の思考かは判別できないという欠点。 それは、人を纏めるには適したものだ。実際、先生としての実力に少なからずそれが含まれていたことだろう。だが、誰かが自分の悪口を考えてようが、それを誰が言っているのかが分からない……下手をすれば鬱になってもおかしくはないような欠点だ。 そして、今まで隠していた欠点を報道されたことで、その負の面は加速度的に増した。 心を読まれていると知って、良い気になれる人間など殆ど居ない。世の中には暗黙の了解というものがあって、思っても口に出さない舌禍が幾らでもある。 そういう、理性で留めたもの全てを知られていると感じることは、土足で精神に踏み入れられるというか、やはり嫌な気分でしかない。 報道によって欠点が知れ渡り、今まで仲良くできていた周囲から拒絶されたのだろう……この一連の事態の最後は、先生の自殺未遂からの精神病院への入院によって幕を閉じたのだ。
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