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……。
「私はここの用務員だよ。まだ春休みで学校は休みだけども、埃達は休みだろうが校内に積もるからね。こうして、掃除しにやって来てるのさ」
僕達を学校に招き入れてくれた用務員さんは、そう言いながらモップを掛ける。モップは用務員さんの手の中で小刻みに振動しており、教室の床が瞬く間に磨かれていく。
「……しかし、音無ちゃん?だっけ?不便な欠点を持ったものだね。
まぁ、欠点なのだから持っていてもデメリットが大きいのは覆るべくも無いがね。こう……有効活用の方法が一つでもありゃなぁ……」
ホワイトボードを携帯する音無ちゃんに言いながら、用務員さんの持っているモップがぐんぐんと振動数をあげていく。明らかにモップが振動しており、用務員さんの手が揺らしているようには見えない。
『用務員さんはどんな欠点をお持ちなんですか?』
「私かい?」
用務員さんが自分を指差して言う。音無ちゃんがこくこく頷きつつ、『仰りたくなければ聞きません』とホワイトボードに書いた。
「いや、大丈夫さ。私のは見たまんまでね。手で触れているものを振動させる……なんと言ったかな、"自励振動"だかって名前の欠点だよ」
高速で振動するモップが、ギュイーンなどというモップらしくない音を発生させながら床を磨きあげていく。どうやら妙にモップが振動していたのは、用務員さんの欠点によるものだったらしい。
「もしかして、ずっとそんな感じなんですか」
「そうさ……えっと?」
「月見里です」
「ああ、やまなしくん。そう、君の言うとおりだよ。
私が触れてしまえば箸が震えて豆は掴めないし、コップが震えて水も飲めん。電子機器は押しミスが増えるし、大型の機械などに触れようものなら大事故の元。
私はこの欠点を持ったことで技師を辞めてね……じゃあ、逆に振動を生かせる奴にしてやろうってことで用務員を始めたんだ」
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