異常な街

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いつから居たのか、僕よりも一回りほど小さな少女がホワイトボードを掲げて僕の前に立っていた。 『こんにちは』 少女は、どうやら僕がまだ気付いていないと思っているのか、ホワイトボードを僕の眼前で揺らして存在をアピールした。どうやら、返事をして欲しいらしい。 「こ、こんにちは?」 突然目の前に現れたようにしか見えない少女に、気を動転したことが丸分かりなすっとんきょうな声で返事する。それでも少女は満足らしく、にこっと可愛らしい笑みを僕に見せたあと、ホワイトボードにマジックペンを滑らせた。 線路を走る音だけがする車内で、暫く少女が文を書く時間が訪れる。そうすると、僕にもようやっと現状の事態を把握できるようになった。 どうやら、電車に乗っていたのは僕一人では無かったらしい。この少女が何時から居たのかは定かではないが、少なくとも地図を広げる前には居なかった筈だ。 ホワイトボードに文字を書いて話すのが好きな変わった子のようだ。先程の『こんにちは』の文字でも思ったが、見た目に似つかわしい可愛らしい丸みのある文字を書く。 僕は彼女に気づかれない程度に、俯いて文字を書く少女の目を見つめた。くりくりと大きな目をしていて、まつ毛が長く、将来美人になりそうな顔をしていると思った。 ……そうして状況を軽く振り返っていると、どうやら書き終わったらしく、少女がまたにこっと笑って此方にホワイトボードを向けた。
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