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『私の名前は音無 流歌です。お兄さんのお名前は何ですか?
ここに漢字で書いてください』
「これに?」
少女……音無ちゃんは僕の言葉に頷くと、持っていたマジックペンの蓋をしてから、ホワイトボードと一緒に僕に渡した。
僕はマジックペンの蓋をパカッと開けると、言われた通りホワイトボードに特徴的な、擦り付けるような音をさせて名前を書く。
……ふと、その時に奇妙な、小さな引っ掛かりが僕の頭の中で生まれた。
そういえば、さっき音無ちゃんが書いていたときはとてつもなく違和感があったのだが、今書いている時には何も感じない。
自分がこうして書いたから気付いたが、音無ちゃんが文字を書くときは何かが足りてなかったような……。
きゅぽん。
「はい、書けたよ。僕の名前」
何か引っ掛かりがあるのは気になるが、気にするほどでもないだろう。僕はさっきの思考を放棄すると、マジックペンに蓋をし、ホワイトボードと一緒に音無ちゃんに返した。
音無ちゃんはそれを受け取ると、書かれた文字を読んだ。それから、不思議そうな顔をして僕を見ると、ホワイトボードに文字を書き始めた。
『なんて読むのですか?』
「あ、ごめんね、それ。月見里 晃(ヤマナシ アキラ)って読むんだ」
『やまなし あきらさん』
「そうそう、因みに君の名前は おとなし るか で合ってるかな?」
『私の名前は おとなし はるか です』
「はるか……ね、覚えた」
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