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『やまなしさんは 何才なんですか?
私は10才です』
「僕は今年で13だよ」
『中学生ですね』
「今年からね。君は……今年から小5になるのかな」
『そうです』
音無ちゃんの筆記速度は早く、文で会話しているにも関わらず、まるで口で会話するように言葉が返ってくる。
彼女自身手慣れているのだろう、何を書こうか迷う素振りはすれど、文自体を書くことに躊躇いはいようで、文面がスラスラとホワイトボードの上に展開されていく。
『やまなしさんも あの街に引っ越しに来たんですか?』
……もう既に、この電車は終着駅を残して他の駅で止まることはない。終着駅にあるのは僕の目的地である街だけで、それ以外にあるのは大自然のみ。
だから、音無ちゃんが言っている街と言うのはたった一つしか指さない。
「そうさ、君も黒服の人に薦められて引っ越すのかい?」
『はい あそこには私を理解してくれる人がきっと見つかると。
そんな人が見付からずとも 酷い扱いは受けないと聞きました』
「酷い扱い……ね」
音無ちゃんがこの電車に乗る前までの生活で何があったのかは想像に難くない言葉だ。
初対面こそホワイトボードを持った不思議な子程度にしか思わなかったが、こうして少し話せば彼女があの街に行く理由は嫌でも気付く。
音無ちゃんが声を使わず筆記で会話するのも、
何故だか音無ちゃんが文字を書くのに違和感を覚えたのも、
音無ちゃんが音もなく唐突に僕の視界に現れたように見えたのも、
きっと"それ"が原因だろう。
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