初雪と冬桜

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 いくら世間で地球温暖化を騒ごうが寒い季節はやってくる。  ついこの間まで「記録的猛暑が~」と繰り返していた天気予報士も今ではすっかりコートを着込み、例年より遅い雪がそろそろ降りそうだと伝えていたのが昨日の夜だったか。  まぁまだ先の事だと呑気に構えていたのも昨日の自分だが、もし戻れるならあの時の自分に「明日は雪でバスが動かなくなるから早く家を出ろ」と伝えたい。 「(くそっ、最悪だ。)」  夏と冬だけ強調して巡る四季の中で、冬が一番嫌いだ。  手はかじかんで動きが鈍るし、いくら着込んでも僅かな隙間から冷気が入ってくる。雪が降ろうものなら交通は麻痺するし…それがつまり今な訳だが。  この地方にしては遅い初雪は、いたいけな学生の油断を誘った。  短時間で多量に降った雪は備えの甘かった路線バスの運航を打撃し、オカゲサマで学校までの道のりをえっちらおっちら歩かなければならず、ただでさえ寒さで動かない体に鞭打って進む学生の辛さを汲んだ先生が休校にしてくれるほどの雪でもなく。  寒さのせいでベッドから起き上がる事を渋った俺は、もうあと5分で始業という時間になっても未だ学校が見えない位置に居た。  いっそ休んでしまおうか。  突然の寒波にやられて風邪だということにすれば仮病とも思われまい。  よし、そうしよう。  旨い物は宵に食え。思い立ったが吉日。善は急げ。  ふっと浮かんだ思い付きを実行すべく、のろのろと進めていた足を180度回転させて颯爽と帰路につこうとした時だった。 ――カシャッ  自然の脅威に打ち震える爽やかな朝に相応しくないこの音は一体なんだ。  ちらちらと降る雪を掻き分けるように細めた眼差しで景色を縫い、その細い腕に雪化粧を施した街路樹の中、ひとつだけ混ざる異色に目を留めた。  認めたのは、学校指定のネイビー色のコートとふわふわ柔らかそうな白いマフラーに黒い短髪。そして一際目立つ、一眼レフ。 ――カシャッ  細く柔らかく、今にも折れそうな白い指には不釣り合いに見えるカメラのレンズはこちらを向いていた。
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