14人が本棚に入れています
本棚に追加
少年、白亜竜桜(はくあ りゅうおう)は迷子になっていた。
家族旅行でニューヨーク自然史博物館に来たものの、途中で両親とはぐれて小学校6年生でありながら涙目で博物館内を彷徨っていた。
係員に助けを求めたいが巨人にも思えるアメリカ人の警備員に話しかける勇気はない。適当に優しそうなオバチャンに助けを求めようにも言葉が通じない故に自分が迷子である旨を伝えることが出来ない。誰にも助けを求めることが出来なくて困っていた。
「Do you have a parents?」
一人きりで彷徨う竜桜を不思議に思った老婆が話しかけた。
「あ…… あ…… ごめんなさい」
いきなり英語で話しかけられ、恐怖を感じた竜桜はその場から走るように逃げ去った。
「Wait!」
待てと言われてるのは分かったが、待てと言われて待つ奴などいない。
竜桜が走りに走って辿り着いた先にあったのは骸骨の人体模型だった。人類の進化についての展示フロアである。いきなり目の前に現れた骸骨に心からの恐怖を覚えた。
「た、助けてぇ……」
竜桜は小走りで人類進化の展示を駆け抜けた。駆け抜けた先にあったのは民族衣装を着せられた世界各国の人達の人形の展示であった。地元にある蝋人形の館でもガクガクブルブルと震え上がるぐらいに怖がりの竜桜にとってはこれすらも怖いものであると言えた。
「もう嫌だよぉ……」
こんな身も知らない場所に一人で放置されては見学どころではない。
とにかく日本に帰りたくて帰りたくて仕方がなかった。不安になって尿意が増し尿道がビリビリと痺れるがトイレが何処にあるかも分からない。こんなことなら母にパンフレットを預けるのではなかったと竜桜は心から後悔した。
「はい、パンフレット。日本語だから読めるわよ」
「かさばるからママ持ってて」
「はいはい」
何故に折り畳んでポケットに入れるぐらいのことをしなかったのだろうか。
竜桜は自分のバカさ加減にうんざりしながら走り続けて辿り着いたのは、象の群れの剥製が置かれたホールであった。
竜桜はその剥製を囲むように設置されていたベンチに座ることにした。足を組んで股間を押さえれば多少は尿意も収まるだろうと考えてのことである。
「もう…… ママ達どこに行ったんだよ……」
竜桜は顔を上げた。視線の先にあったのはライオンの剥製であった。そのライオンの剥製と目が合ってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!