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こんなマニアックな日本の諺を知っているとは…… 外見こそロシア人だが、実は浅草生まれの浅草育ちではないだろうか? そんな考えが竜桜の頭の中に過ぎった。
竜桜が布テープによって二つに分けられた部屋を見ると、一つの問題点に気がついた。
「ねぇ、トイレとお風呂が君の方しかないじゃないか?」
この部屋の風呂とトイレは西側、つまりザーブル側の方にしかなかった。まさか風呂トイレ無しで三年間過ごせと言うつもりなのだろうか。
「風呂は大浴場を使えばいいじゃないか。トイレだってこの寮にはワンフロア毎にあるじゃないか」
ふざけたことをよくも言う。後で先生に言ってどうにかしてもらおう。竜桜は憮然そうな顔をしながらベッドに座った。
これ以上、ザーブルと話しているとムカムカしてくる…… 竜桜はテレビを見ることにした。ザーブルはハードカバーの本を読みにかかっていた。
テレビのチャンネルを変えていく竜桜だったが、かつて経験したことの無い違和感に気がついた。信じられないことに、チャンネルが二つしかないのである。
「あれ? チャンネル少なくない?」
「福井のテレビ局は公共放送と民法六社が中途半端に統合した局の二つしかない」
さすがの地方ローカル局。この分じゃあ、これまで観ていたアニメの続きは期待できない。竜桜は「はぁ~」と、溜息を吐いた。
「申請すれば京都のケーブルテレビを引けるけど…… そこまでしてテレビって観たいものか?」
ザーブルは竜桜とは一切目を合わせずに述べた。ロクに観るテレビ番組が無いことを想定していたのか、机の上にはロシア語の何やら分からない文字で書かれた背表紙が机の上にぎっしりと並べられていた。
ザーブルの机の上にある本だけでも読むのに数年はかかりそうな冊数が並べられている。
「ああそうだ、明日は入学式の後に歓迎の食事会だからな。先生に報告するように言われたから報告したよ」
そう言ってザーブルは読んでいた本を閉じ、ベッドに入り込んだ。
ベッドの中から着ていた服と下着がぽいぽいと飛び出し、投げ捨てられ床に舞い落ちた。まさかこいつ、全裸で寝てるのか?
それを見た竜桜は正直「引いて」しまった。
「ねぇ、寒くないの?」
「うるさい。ロシアの大地に比べたら日本では寒いとされている福井でも熱帯夜みたいなものだ。裸じゃないと暑くてたまらない。もう寝るから話しかけるな」
ザーブルは寝に入った。すーすーと言った寝息が離れた竜桜の方にも聞こえてくる。
「面倒な子と一緒になっちゃったなぁ」
竜桜は大きな溜息を吐いた。
「溜息うるさい、眠れない。日本人は溜息が大好きなぐらい悩みが多いとは聞いていたが、本当だったようだ」と、ザーブルが冷徹に言い放った。
どうしたらいいのだろうか。溜息の原因がよくも言う! 竜桜はふてくされながらも寝ることにした。
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