第一章、退学

23/31
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/133ページ
竜桜はこの説明を聞いてワクワクとし、血肉沸き踊っていた。ようは「闘い物が好きな男の子」と言うことである。 「負けた方が全面的に罪を認めて謝る! いいね?」 こうして聞くと本当に戦いの原因は極めて下らない。だが、それが通ってしまうのがこの恐竜学苑のルールである。 お互い、コクリと頷いた。 「恐竜ファイッ!」 戦いのゴングが鳴らされると同時にティラノサウルスとアロサウルスは激しく衝突した。 その衝撃が体育館全体に伝わり客席の椅子がグラグラと揺れる。 ティラノサウルスの懐に入り込んだアロサウルスは前足の爪でティラノサウルスの腹を切ろうと小さく振りかぶった。 「ティラノ! 離れろ! あいつの爪は危険だ!」 その指示に合わせて、ティラノサウルスは後退した。アロサウルスは爪を空振り体幹のバランスを崩した。 「今だティラノ! そのまま頭を噛み砕け!」 ティラノサウルスは左後ろ足を軸にし、回りながらアロサウルスの頭を噛もうとした。しかし、アロサウルスはすぐにバランスを立て直し、小刻みな足の動きで後退する。 「やった! よく避けたアロサウルス!」 ザーブルはアロサウルスが回避に成功したことを褒めた。しかし、それもつかの隙、黒い尖った影がアロサウルスの頭に向かう。 その黒い影はアロサウルスの右側頭部に直撃した。アロサウルスはそのままふっ飛ばされて地面に倒れ込んだ。 「牙を躱したと思ったか? 甘いんだよ! 回ってるんだから二の矢の尻尾が来るに決まってるじゃねぇか!」 ティラノサウルスは自らの体を回転させ、突撃してきた。牙を躱しても同じ軸線上には牙があった場所よりも長い尻尾が飛んでくる。言わば二段構えの技である。 「起きろ! アロサウルス!」 しかし、アロサウルスは尻尾による一撃で脳震盪を起こしピクピクとしか動かない。その動けぬアロサウルスに容赦ない追撃が入る。 「はぁー! どすこーい!」 ティラノサウルスは力士の四股のように大きく左後ろ脚を上げ、アロサウルスの腹を踏んだ。アロサウルスはぐたりとして舌を出した。 力士の四股は大地の悪霊を祓うと言うが、悪霊に等しき坊君の四股にはどの様な効果があるのだろうか。 大地の悪霊も暴君と言う巨悪には敵わないのかもしれない。
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!