プロローグ

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「ほっほっほ、この化石が気に入ったのかい?」 竜桜に好々爺の老人が日本語で話しかけてきた。竜桜は両親から「海外では人を見たらドロボーと思え」と厳しく言われていたのだが、この白髪交じりに灰色の背広に恰幅の良い外見を見てドロボーとはどうしても思えなかった。 「うん、なんて言ったら分かんないけど。怖いんだけど……」 「そりゃあそうじゃろ、アロサウルスがブロントサウルスを今から食べようとしとる所じゃからな」 アロサウルス。その言葉を聞いて竜桜は驚いた。なぜなら、今までブロントサウルスを襲っているのはティラノサウルスだと思っていたのである。 「えええー! あれティラノサウルスじゃないのー?」 「似てはいるが全然違うものなんじゃよ」 老人はティラノサウルスとアロサウルスの違いについて説明を始めた。 まず頭骨の大きさ、ティラノサウルスは大きく、アロサウルスは小さい。しかし、個体差がある為に大きさで見分けるのは不適切である。その為に眼球のくぼみの上の突起で区別する場合が多いとのことであった。 ちなみに、同じフロア内のガラスケースの中にはティラノサウルスの頭骨のみが展示されている。 「後でティラノサウルスの化石を見ると、わかるんじゃが手の大きさが全然違うんじゃよ」 ティラノサウルスの手は小さく、機能していたかどうかも怪しいぐらいで「オマケ」程度の手であった。アロサウルスの手は大きく、5センチ程の湾曲したとても丈夫な爪が付いている。 「つまり、ティラノサウルスは頭が大きい分、顎の噛む力が強くて歯で獲物を引き裂いて直接食べていたんじゃ。アロサウルスは頭が小さくて噛む力が弱い分、爪で引き裂いてから獲物を食べていたんじゃ」 「形は似てるのにかなり違うんだね」 「アロサウルスの種類だけで21種類、ティラノサウルスの種類でも13種類、化石で発掘されても分からんもんじゃよ。発掘した時に突起が崩れでもしようものなら、もうどっちか分からなくなる。大きさも違ってくるしのう」 「人間だって、ゴリラみたいな奴いるもんね」 「そうじゃそうじゃ、個体差って言うてな。人間とはホモ・サピエンスだけなのか本当に疑問なもんじゃて」 竜桜は隣にあるディプロドクスに視線を移した。例によって似たような形の恐竜と勘違いをしていた。
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