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一塁側内野席
悠太郎がスタジアムに到着した頃にはすでに1回裏のベイスターズの攻撃が始まっていた。
満席のシートの中でポツリと2席が空いている。
悠太郎はチケットの指示通り空いている2つの席のうち端のシートに後ろの親子連れの観客たちに気を配りながら座った。
1回裏のベイスターズの攻撃はチャンスを作ったものの無得点に終わり、悠太郎から遠く離れた三塁側のスタンドが賑やかになる。
この合間をぬって悠太郎は早速ビールを頼む。
「うーん、うまい!」
無遠慮な母親からの唐突な提案ではあったが、今はこのビールの喉越し《のどごし》に少し感謝していた。
夏にしては湿度も落ち着き、ハマ風が心地よい。
悠太郎が小学生の頃には家族でスタジアムに来ていた。
中学生、高校生になってからは部活も忙しくなり、大学に入ると今度は部活がバイトに変わっただけで、スタジアムに来るのは小学六年生以来である。
けっこうな長い間、ここに来なかったのだと悠太郎はぼんやりと思いながら、澄んだ青空を見上げた。
そう言えば、あの日もこんなきれいな青い空だった。
あの空に白い一筋の飛行機雲だけがやけに寂しさを募らせたものだった。
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