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小学六年生
あれは悠太郎にとっての初恋だった。
陽菜香の家族が悠太郎の家の向かいに引っ越してきたのは小学二年生の春。
悠太郎の両親は越してきたばかりの陽菜香の家族を何かと気にかけては、休みの日になると一緒に夕食を囲み、スタジアムにも何度か応援にやってきた。
同じ年の悠太郎と陽菜香はそんな環境の中でごく自然と仲良くなっていった。
しかし二人が小学校六年生の夏、陽菜香の家族は父の仕事の関係で海外に暮らすことになった。
悠太郎たち家族は空港まで見送りに行き、屋上のデッキから陽菜香たちを乗せた飛行機を見送った。
今日のような青空の中に一筋の白い飛行機雲が今でも悠太郎の心に寂しさとともに残っている。
悠太郎はあの日、あの青い空に願いを込めた。
『良い子にして勉強も頑張るからいつかまた陽菜香に会わせてください』
悠太郎の母親はそんな寂しげな息子の姿をただ優しく見守っていたのだった。
悠太郎は青空を見上げながら、あの日の飛行機雲と陽菜香のことを思い出す。
あの日から悠太郎なりに頑張ってきた。
勉強だけでなく部活も頑張り、県大会で優勝さえ逃したものの剣道を通じて精神も鍛えられた。
実家から通える国公立の大学に合格し、テレビのコマーシャルでも知られるほどのしっかりした企業に勤めている。
そんな悠太郎の逞しくなった姿を母親はずっと見守り続けてきた。
むしろ、あの日の陽菜香との別れが息子を強くしたのかもしれないと感謝できる心持ちになっていた。
「ファウルボールにご注意ください」
スタジアムのアナウンスで悠太郎は再びグラウンドに視線を戻した。
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