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デイゲーム
「せっかくの休みの日だっていうのに家でゴロゴロしてないで、どこか出掛けたら?彼女はいないの彼女は?」
ノックもなしに部屋に入るなり小言がうるさい母親に、悠太郎は諦めたように「いねーよ」とつぶやいた。
「じゃぁ、今日のベイスターズのデイゲーム、行ってきたら」
知り合いからもらったというチケットを母親は哀れな息子に手渡す。
「今日?デイゲーム?もうすぐ始まるじゃん?しかも1枚?」
「だって彼女いないんでしょ、だったら1枚で十分じゃない」
悠太郎はこの横浜に生まれ育った。
働き出して5年ほど経つが実家から品川にあるIT関連の会社に通っている。
ずっと実家暮らしのまま悠太郎は27歳の夏を迎えていた。
付き合った彼女もいたが、それも今となっては遠い昔の大学の頃の話である。
「じゃ、折角だし行ってくるよ」
悠太郎はもぞもぞと用意を済ませると台所に立つ母親にそう告げて玄関先へと向かった。
ちょうど母親の茶飲み友だちの近所のおばさんに出くわした。
「あら、お出掛け?悠ちゃん」
「チケットもらったんでスタジムへ」
「あー、お母さんからね」
そう言って笑顔で悠太郎を見送った。
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