プロローグ

2/2
59人が本棚に入れています
本棚に追加
/186ページ
 分厚い、闇の中にいた。 「……重た……」  胸にかかる圧。  息が。  つらい。  酸素、足りない。  動けない。  けど、このままじゃ。  誰か。  どうか外へ。  ここから、おれを……。  “助けて。誰か”  頭の中、浮かびかけては消える言葉。絶対に、声にはならない。  だっておれは知ってる。  ここしか、ない。  おれの居場所は、ここにしか――。  そのとき不意に、「圧」の裂け目から光が差し込んでくる。  そして、頭上に差し出された手。  そんな。まさか。  ……本当に?  おれは自分の目を疑う。  考えたこともなかった。おれを助けてくれる、誰か。そんな存在が、いるかもしれないってこと。  だめだ。願っちゃだめだそんなの。  だって、巻き込んでしまう。  そう思うけど、目がもう。その手から、離せない。  結局、自分を縛る意志なんかより、限界だって叫ぶ身体の声の方が強くて。  何も考えられなくなった頭で、見えない何かに突き動かされるようにつかんだその手は、おれを「そこ」からぐいと引きずり出してくれて。  その瞬間、思い出す。  おれは知ってる。  細いのに力強い、この手は――。  気づけば走り出していた。  どこまでも広がる、金色の光。風になびく、名前も知らない草。  つながれた右手の先、斜め前で踊る髪と、その向こうの空の優しい青。 「――ゆーくん」
/186ページ

最初のコメントを投稿しよう!