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分厚い、闇の中にいた。
「……重た……」
胸にかかる圧。
息が。
つらい。
酸素、足りない。
動けない。
けど、このままじゃ。
誰か。
どうか外へ。
ここから、おれを……。
“助けて。誰か”
頭の中、浮かびかけては消える言葉。絶対に、声にはならない。
だっておれは知ってる。
ここしか、ない。
おれの居場所は、ここにしか――。
そのとき不意に、「圧」の裂け目から光が差し込んでくる。
そして、頭上に差し出された手。
そんな。まさか。
……本当に?
おれは自分の目を疑う。
考えたこともなかった。おれを助けてくれる、誰か。そんな存在が、いるかもしれないってこと。
だめだ。願っちゃだめだそんなの。
だって、巻き込んでしまう。
そう思うけど、目がもう。その手から、離せない。
結局、自分を縛る意志なんかより、限界だって叫ぶ身体の声の方が強くて。
何も考えられなくなった頭で、見えない何かに突き動かされるようにつかんだその手は、おれを「そこ」からぐいと引きずり出してくれて。
その瞬間、思い出す。
おれは知ってる。
細いのに力強い、この手は――。
気づけば走り出していた。
どこまでも広がる、金色の光。風になびく、名前も知らない草。
つながれた右手の先、斜め前で踊る髪と、その向こうの空の優しい青。
「――ゆーくん」
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