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トボトボと歩く夕焼けに照らされた河川敷では、キャッチボールをしている小学生くらいの男子たち、敷物を敷いて酒盛りでもしてるんだろうか、自分と年の近い暇そうな男たちもいる。
空を見上げる。
あたたかい色に染まっているその風景は今は物悲しく見える。うっすら下の方に見える紫色、あれが徐々に空を覆い尽くし、暗闇に染めてしまうのだ。
その絶望━━壮は絶望と決めつけた━━を、アパートで一人で迎えなければならない。
足を速める。涙がにじまないうちに部屋に戻らなくては!
「ちきしょー! 俺のいったいどこが不満だったんだよぉ! 清夏のヤツ! カオが王子じゃないからか? K大じゃないからか? 男の良さはそこで決まるのかよ!」
「……そうだったんじゃね?」
アパートに呼びつけられた秀は、缶ビールを開け、座卓には柿の種、するめ、コンビニで買ったキャベツの漬物、胡瓜のぬか漬け、ソーセージの盛り合わせを並べていった。
「うわっ! 何お前こんなに買ってきてんの?」
「安心しろよ、買ってきたのは漬物とソーセージだけだから。後は、家にあったのを持参した」
「……いいなぁ、地元は」
壮は半額だけ払うと、冷蔵庫からペットボトルのオレンジジュースを出してきて、秀と乾杯した。
「そうか! 俺が飲めないからか! 清夏はハタチ過ぎてるからもう酒飲めるけど、俺は早生まれだから来年まで飲めないし! イケメン・ハイスペックK大王子は飲めるのか? くっそー、なんもかんも俺を上回ってんなー!」
秀はビールを飲みながらテレビを点け、美少女アニメを見ていた。
「だからお前もさー、リアルなんかやめて二次元にしろよ。二次元は裏切らないんだぜ。しかも、リアルよりカワイイし」
秀は高校の時、「好きな人が出来たから」とだけ言われ、三週間で別れた経験を持つ、今の壮の気持ちをわかってくれる貴重な友人だった。
だが、そのアドバイスは壮には適しているとは言い難い。
「はあ、……癒されてぇな」
胡座をかき、放心状態でジュースを一口飲んだ壮が、ポツンと呟いた。
「誰かに優しくされたい」
「うんうん、そうだな」
秀が「あははは!」とテレビを見たまま声を上げて笑う。
気がつくと、ソーセージは、壮が一口も食べないうちになくなっていた。
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