【間が差す】

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【間が差す】

私の名前は『小幌 月子(おぼろ つきこ)』。 再生医療に関する研究機関に勤務する研究者だ。いや『だった』と表現した方が正確だろう。私が何気なく発表した論文が学会から注目を集め、あれよあれよという『間』に世界中から世紀の大発見と持て囃される様になったのは一昨年の春。 自分でも怖くなるくらい、奇跡的な光景だった。 昼行灯 幼い頃の私を揶揄した言葉。 有名なドラマや小説の主人公よろしく、おとなしくて目立たず、パッとしないキャラ。だけど決定的に違うこと。それは彼ら主人公達とは異なり、私には何一つ才能と呼べるものがなかったこと。 国語、算数、理科、社会。およそテストで点数が付く科目は平均点と呼ばれるものに届いたことがなく、かと言って体育も図画も押しなべて苦手。現在の私からは想像も出来ない、みすぼらしい程ダメな子。 それが当時の私の姿だ。 両親が共に医師であり、歳の離れた姉は有名私立中学に通う一方、自分には取り立てて目立った才能がない。 その現実はナイフのように幼い私の心を傷付けた。 そして...... 間が差す 自分の心に、ぽっかりと穴が空いてしまった様を表す言葉。およそ自尊心と呼べるものを築けなかった幼い私は、いつしか常に『間が差した』状態になっていた。優秀な両親と才色兼備と謳われる姉を尻目に、平凡未満の私はいつしか人の目を真っ直ぐ見れない子供に育った。 周囲の目が怖い。だから尚更自分の存在感を消し、景色に溶け込むことに腐心する。その名の通りクラスの中では霞んでしまい、居るのか居ないのか判らない子。まるで『朧月』のような存在。それが当時の私だ。 そんな『間』で埋め尽くされた私の心に、やがて最初の『魔』が差す出来事が訪れる。
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