愛するあなたへ

3/3
前へ
/3ページ
次へ
ねぇ、私とあなたの子供は立派に育ったのよ。あなたがおっかなびっくりで抱いたあの子、ますますあなたに似てきたわ。あなたの変人性と文才は継がなかったみたいだけど。 子供が気になるのなら相手をしてやれば良かったのに。あなたって、そういうところ不器用よね。だから周りに家庭を顧みないヒドイ男って言われるのよ。 なんて言ってもあなたはそういうのを気にしない男だったわね。私も気にしなかったし。 あなたが何処で何をしようと、私は口を挟まない。 あなたは自由であることで輝ける人だから。 あなたがたまに帰ってきて、私に笑顔を見せてくれたらそれだけで、それだけで怒りも悲しみも寂しさも何もかも吹っ飛ぶの。 だからね、帰ってきて。 10年近くも経ったんだから、もう帰ってきても良いじゃない。 あなたが帰ってきたら、あなたの墓を壊して掘り返して、あなたの代わりに入れられたカメラを取り出して渡すわ。 それで私を撮って。 またバカみたいに笑いましょう。あの頃みたいに。 あなたの帰る場所はここなんだから。 誰が何と言おうと、私は待っている。 ずっとずっと、愛するあなたを待っている。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加