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冷たい指で
髪の毛も凍りそうなほどの中で彼女はただ一点を見つめてシャッターをきっていた。
そして僕に向かって言う。
A:「やっと撮れたわ。これで証拠がまたそろう」
B:「復讐の材料がそろったんだ。これで終わり?」
僕が確認するけど彼女は返事をしないまま再びカメラを構える。
まだまだだとでも言うのか、それとも答えるまでもないということなのか。
読み取ろうとするけど氷の矢を発する彼女の瞳を見ていると底は知れない。僕にはいや、誰にもたどりつけないところに彼女は一人でいるようだ。
彼女がシャッターを何度か射るようにきりまた僕の方を向く。
A:「今までありがとう。協力してくれて。あとはわかってるよね。覚えてるでしょ」
B:「……復讐が終わったら君は遠くへ行く。そして僕は君のカメラやスマホやメモを処分する。この世から完全に」
僕が答えると彼女は少しだけ笑った。
その笑顔は今まで見てきた笑顔のなかで一番儚く、哀しく、さとりきったものだった。
カメラにそえられた細く長く白い彼女の指は死神の指先に変わっている。冷たい指先だ。
そう思うとただでさえ髪の毛も凍りそうなのにさらに気温が低くなった気がする。今すぐにここから逃げ出したいほど寒いのに、この時間が永遠に続けばいいと思った。
そうすれば彼女の復讐は果たされない。
そうすれば僕は彼女の痕跡を消さなくていい。
そうすれば彼女は遠くへ行かない。
でもそれは叶わない。途方もない願いだ。
彼女は何度もシャッターをきる。その音が僕と彼女の別れまでの時間をカウントしているようだった。
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