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外を出て、早々に彼女にヘルメットを渡される。
「少し遠いので、バイクで行きますよ」
「バイク乗れるの?」
「もちろんです」
そう言って、彼女はポニーテールの髪を解いて、赤いヘルメットを被った。
僕も恐る恐る彼女の後ろに乗り込む。
バイクの後ろに乗せてもらうのは人生で初めてだった。
深夜の道路を一気に飛ばして走り出す。長い間飲み屋の脇で眠っていたバイクはエンジンが入ると、ブォンと一声鳴らして息を吹き返し、全速力で走り出した。
「ひぃ、はやいぃぃ」
運転している彼女の肩を掴みながら、高速で走り出す乗り物に怖気づく。最初は目をつぶっていたが、だんだん慣れてきて顔をあげると、建物がどんどん後ろに流れていく様子が視界に入った。夜の風を全身で受けると、清々しい気持ちになり、途端に目が覚めるような思いがした。
「どうですか?いい感じでしょ」
「最高ですね」
日々の閉塞感も、なにもかも置き去りにしてしまうような速さだった。このまま走れば、新しい世界に行けるような気持ちがして、僕は大きく息を吸った。
バイクの免許が突然欲しくなった。何かを欲しいと思ったのが、とても久しぶりな気がした。
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