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恐る恐る目を開けると
「……」
思わずヘルメットをとる。
目を見張るような、確実に僕が生まれてから一度も見たことのない景色がそこに広がっていた。
僕の表情を見て、彼女は満足そうに笑った。
「どうですか?」
「……都会とは思えない」
「ビルがたくさんあるところだと、明かりが邪魔でうまく見えないんです。でも、海を背景にするととてもよく見えます」
僕たちは浜辺に立っていた。目の前には海が広がっている。空には星が無数に散らばって、思い思いに輝いていた。
あまりの美しさに息を飲む。
「最近空を見ましたか?」
彼女は、砂浜に腰を下ろして尋ねた。
「……」
そういえば、最後空を見上げたのはいつだろうか。
「昨日の月の形や、雲の大きさ、空の色を思い出せますか?」
思い出す以前に、見ていないような気がする。
「……なにも」
僕は、力なく首を振ったあと、彼女の横に腰を下ろした。
「空を見上げることができる人は、心に余裕を作れる人だって、昔おじいちゃんが言ってました。」
彼女は、空を見上げながら言った。
「人は仕事をする時も、携帯電話を見てる時も、下を向いてることが多いです。上を向かないと、こんなに綺麗な空がすぐ近くにあるのに気づけません。」
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