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ようこそ、終電後の世界へ
「最悪だ…」
目の前で無情にも走り去っていく最終電車を見送って、力なくため息をついた。
会社を出た時点で、間に合わないかもしれないという嫌な予感はあったが。
肩を落としながら、時計を見る。夜中の12時半を少し回ったところだった。
先月付で、会社の新しい企画を考える部署に配属され、無いアイディアを絞り出す毎日。
ほぼ、終電近くまで働いて、帰ったら倒れるように寝る。
翌日回復しきっていない体をたたき起こして、重い体を引きづるように会社に向かう。
これだけでも十分な悲劇だ。
だが、悪いことが起こるときは、立て続けに起こるものである。
「話があるの」
彼女から突然電話がかかってきたのは、先日のことだった。
その声のトーンと、よくない切り出しに、嫌な予感がした。
「うん」
「今から、あなたの家行くから」
日曜日の17時。明日から仕事という事実に直面している時に、なんてことだろう。
彼女は、それからきっかり一時間後、僕の部屋のインターホンを乱暴に鳴らした。
「ごめん、もう別れたい。」
彼女とは、大学の時のサークルで知り合って、付き合ってもう三年目だった。
「仕事、仕事って。私と会う時間もそんなに捻出できないわけ?」
何も返す言葉がなかった。週に一回もらえる休みも、ほとんど睡眠につかってしまうので、人に会う気力がなかった。
「仕事が大変なのはわかるけど、全然連絡もくれないし、毎日来るか来ないかもわからない返信を待ってるの本当に疲れちゃったの」
「そうだね」
「今までありがとう。さようなら」
彼女は、持っていた大きめの紙袋を、机の上に置くと、そのまま家を飛び出した。
紙袋には、僕が誕生日や記念日にあげた財布や、時計が詰められていた。
とても綺麗にしまわれていたので、僕はそれを見て少しだけ泣いた。
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