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雲一つない晴天のカンバスに、飛行機が、白の絵の具で線を引いていく。
優衣はそれを見上げてから、両手に持ったバスケットボールを見つめた。
――ボールは友だちって言うだろ。これ、貸しといてやるよ。俺がまた帰ってくるまで、こいつと仲良くしてろよ。
別れ際の、純平の言葉だ。そう言い残して、彼は昨日、アメリカへ舞い戻っていった。
「ボールは友だちって。サッカーじゃん、それ」
スポーツ漫画音痴の優衣でもわかる。確か、サッカー漫画の名言だったはずだ。
ほんと、能天気な男。
地面に二回、ボールをバウンドさせる。優衣は、バスケットゴールに向けて、ボールを放った。
純平がよく通っていた、近所のスポーツセンター。屋外に、バスケットゴールが設置してある。
優衣は今日、一人でここへ来ていた。
放ったボールは、リングにかすりもしなかった。まるで、優衣に意地悪をするかのように。
優衣は、むすっとした顔をした。
バスケットボールに、もし性別があるなら。純平のボールは、絶対に女だ。絶対。
仲良くなんて、なれる気がしない。優衣は、バスケットボールを拾い上げた。
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