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「優衣ちゃん。これ、もしよかったら俺と一緒に観に行かない?」
大学生になって、二度目の夏。
アルバイト先の先輩が、優衣に二枚のチケットを差し出した。
「これ……」
チケットを見た優衣は、思わず絶句した。
「あ、もしかしてスポーツ観戦、苦手?」
窺うように訊いてきた先輩に、優衣は慌てて首を振った。
「あっ、い、いえっ」
「ならよかった。親戚にチケットもらってさ。誰か一緒に行ってくれないかなあって思ってたところで。そしたら、たまたま今日優衣ちゃんとシフト被ったからさ。それで、訊くだけ訊いてみようかなあって」
やけに言い訳がましく、先輩はそうまくし立てた。
口実、なのだろうか? 優衣は先輩に気付かれないよう、訝しげな目を作った。男性に免疫がないもんだから、探ってみたところで真意は分からない。
「私でよかったら」
結局優衣は、そう返事をした。
「ほんとっ? よかったっ。あ、じゃあこれ。渡しておくね」
優衣の手にチケットを握らせると、先輩はご機嫌そうに手を振って、休憩室を出ていった。
優衣は、自然と入っていた肩の力を抜いた。そして、手の中に収まったチケットを見る。
筋肉隆々な男性が、あの忌まわしきドラ焼き色の球を持って、ポーズをとっている。
優衣は小さくため息をつくと、バッグにチケットをしまって、休憩室を出た。
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