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純平が窓の鍵を外し始めたので、優衣も同じようにした。
コバルトブルーの空に、二年前と同じ、サッシの擦れる古くさい音が立ち昇った。
「よお。久しぶり」
「うん」
なんだか妙に照れくさい。純平の方はあまり見ずに、優衣は椅子を引いてくると、買いだめしていた漫画本の中から、一冊を引き抜いた。
「バイトしてるんだって?」
純平がそう訊ねてきた。
漫画本の紙面に視線を滑らせながら、優衣は、うん、と生返事をした。
「何やってんの?」
「何が? ああ、バイト?」
「うん」
「べつに。ふつうの飲食店」
「へえ、飲食店」
「うん」
「へえ」
純平が、口先だけでそう納得する。
優衣は、横目で純平の手元を見た。バスケットボールが、まるで生き物のように、忙しなく跳ねたり、回ったりしている。
バスケットボールが、やけに小さく見えた。
いや、違う。純平の手が、また大きくなったのか。
「純平も」
「おとっ」
「え?」
「え?」
二人の声が重なった。
二人は顔を見合わせてから、どうぞ、いやそちらからどうぞ、と、お笑いトリオのように譲り合った。
結局、純平が先に口を開いた。
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