お別れの、二年後。

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 純平の口が、次第にほうけていく。小脇に抱えていたバスケットボールが、ぼんっ、と床に落ちた。 「へ」 「だから、愛してる」 「な、なん」 「まあ、正確には、愛してた、だけど」 「え、えっ? ちょ、ちょっと待って。なんで過去形?」  純平が、頬を赤らめたまま焦り始める。  優衣は言った。 「もうやめるの」 「や、やめる? やめるって何を」 「純平を好きでいるの」  純平が絶句した。  優衣は続けた。 「私、バスケットが嫌い。純平を連れてった飛行機雲も、今見ると、無性に腹が立つ」  瞳が潤み始める。唇が震えて、喉の奥がひりひりと痛んだ。 「アメリカも、一生行かない。純平を夢中にさせるもの、全部全部、憎たらしい」 「優衣」  純平が、慌てたように呼び止める。けれど、優衣の想いは、堰を切ったように溢れ出した。 「純平を好きだと思うたびに、嫌いなものが増えてく」 「待って優衣。ちゃんと話そう」 「バスケットも、飛行機雲も、アメリカも」 「優衣ちゃん? 優衣さんっ」 「本当は私、好きになりたい」 「優衣様っ」  優衣の目から、雨粒みたいな涙が、ぼろりと落ちた。 「もう終わらせたい。私はちゃんと、純平の夢を応援したい」  空を見上げるたびに、ため息をつくのは、もういやだ。
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