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いつのまにか純平がいない。優衣は、屋根と屋根の間から、空を見上げた。
空なんか見上げたって、涙なんてちっとも止まらない。溢れ出す一方だ。小説とか歌詞とか。ほんとあんなの、嘘ばっかり。
どたどたどたっ、と、階段を駆け上がってくる足音がした。したかと思うとすぐに、優衣の部屋のドアが開け放たれた。
「優衣っ」
純平が飛び込んできた。そして、その勢いのまま、叫んだ。
「結婚しようっ」
優衣はぽかんとして、一つしゃくりあげてから、言った。
「死んで」
「なぜっ」
優衣は泣きっ面のまま、いつものあきれ顔を作った。
「いや、それこっちの台詞。今私、あんたのことふったんだけど」
「だからなんでっ。俺たち、両思いじゃんっ」
不可解そうにそう訴える純平に、優衣は言った。
「だって私、このままだとバスケット好きになれない」
「いいじゃねえかっ、べつに」
「いや」
「なんでっ?」
「だって」
優衣の頬に、大雨が降る。
「好きな人の、好きなものなのに」
そう言って、子どものように、泣きじゃくった。
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