お別れの、前の日。

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 閉じられたカーテンの向こう側から、何かが窓にぶつかる音がした。  こつん。空白があって、またこつん、と。  スカイブルーのカーテンを見つめながら、優衣はどうするべきか逡巡した。  すると、こつん、だった音が、ごつん、にかわった。  優衣は観念した。窓の方へ向かうと、カーテンを開け放った。  窓越しに目が合った隣人は、シュートポーズのまま固まった。右手には、バスケットボールの代わりに小石が乗っている。  ジト目で隣人を一瞥してから、優衣は窓の鍵を外した。窓を真横へ滑らせると、錆びついたサッシが、きゅいきゅいと音を立てる。  優衣が完全に窓を開放するのを見届けてから、純平は最後の一投を家と家の間に投じた。 「スリーポイントシュー」  ぽとっ、と、一階下の地面から、ちっぽけな音がした。 「私の部屋の窓、壊す気?」 「久しぶり」 「うん」  幼馴染同士の控えめな挨拶が、三月の夜風にさらわれる。  部屋の床に転がしてあるバスケットボールを拾い上げながら、純平が言った。 「聞いたか? 佐藤と竹田、結婚するらしい」
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