お別れの、前の日。

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 いや、さすがに知ってるし。  近所のおばちゃん、ミーハーな後輩、噂好きな同級生。この小さな田舎に、一体何台の歩くスピーカーが存在していると思っているのか。 「あ、そうなの」  漫画本の紙面から目を離さずに、優衣はそう言った。 「ああ」 「いいなあ、海外。行ったことないや」 「だろうな。田舎もんだからな」 「あんたも田舎もんでしょうが」 「俺は明日からアメリカざいじゅーだ。バーカ 」 「在住の漢字もわからないくせに。バーカ」 「バカって言う方がバーカ」  くだらない。  優衣は漫画本を閉じた。椅子から立ち上がると、漫画本を本棚へ戻しながら言った。 「ほら、さっさと寝なよ。バスケット界期待の新人が、寝坊で飛行機乗り遅れたら、かっこ悪いでしょ」  バスケット界期待の新人、だって。マルコメ頭の、やんちゃ坊主だった男が。人間、一つくらい取り柄があるもんだ。 「プロのバスケ選手になったら、きっとモテるんだろうなあ。アナウンサーかモデルと結婚できたりして、俺」 「そしたらサインもらってね」 「俺のサインは?」 「有名になったら売るからちょうだい。じゃあね、おやすみ」
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