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4.
「ジャーゲルト、この子はもう駄目だわ」イブリースは弱々しく明滅する犲の、脇腹を撫でた。
「送ってあげていい?」
精霊師がうなずくと、イブリースは自らの剣を抜き、精霊の脈打つ心臓に突き立てた。風にのって遠吠えが聞こえ、しもべは異界の彼方へ逝った。
いままで精霊の体が灯していた通路は、途端に暗黒に包まれた。
「待っていろ。いまを明かり灯す」
精霊師が指で小さな蛍光色の陣を描くと、中心から淡く光る蝶が二匹、舞い出てきた。汚泥の中に伸びる狭い古代の通路が、再び浮かび上がる。
「こんな蝶を出すだけでも、息が乱れている。この空間の重圧のせいだ」
ジャーゲルトは息を整える為に、慎重に呼吸する。先ほどの雷竜にやられた胸の傷がうずいた。
「お互いにもうボロボロね。子供の頃、訓練のせいで毎日の終わりには、こんな風になってたっけ」
そしてジャーゲルトに癒やしてもらったわ――そう続けようとしたが、イブリースは咳き込んでしまい、話は中断された。血の味が彼女の口の中に広がった。
「あまり喋るな、力を消耗するぞ」
歩き出したジャーゲルトの態度は冷たかったが、歩みの速度はイブリースに合わせていた。
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