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今回のような任務にはもってこいの「使い捨て」だな。ジャーゲルトは皮肉った。
彼の隣で伏せていた精霊――光る体を持つ獣――が、甘えるような声をだした。ジャーゲルトは意識を今に戻し、仲間の精霊師に訊いた。
「どうだ」
「駄目だね。虫が命令を聞かない。どいつも馬鹿になったみたいだ」
土の精霊師は、かけていた黒い眼鏡を放り投げ、降参気味に言った。
彼らの目前には巨大なオベリスクがあったが、石柱はすでに倒され、いまはその根本にぽっかりと大きな穴を晒していた。穴は階段のついた坂道につながっていて、数メートル先から闇になっている。
「この先には破滅の臭いしかしないな」
ジャーゲルトはそう結論づけた。
「どうしたの、兄さん」
精霊師の表情を読み取ったイブリースが、怪訝な様子で訪ねた。彼女はいつもジャーゲルトを慕い「兄」と呼ぶが、ネグルに家族はいない。
「索敵に放った斑猫が戻って来ない。おそらくこの穴の底が目的地だ」
「宝珠が…そこに?」
イブリースは覚悟を決めた時の癖で、前髪を振り払った。隠されていた左目から頬までの黒い痣が、一瞬あらわになった。
「ああ、間違いなく」
「私の命、そこまで保つかな」
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