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黒い心臓(ネグル)」のジャーゲルトは一瞬、何者かの視線を感じ、厚い雲が覆う天を仰いだ。彼の前髪の白いひと房が、額に埋め込まれた緑柱石(ベリル)に、ぱらりと垂れる。空からは小さな雨粒が落ち始めていたが、全身に鎧のようにまとっている風の守護波のおかげで、精霊師の白い肌と黒いコートが濡れることはなかった。  三日前、ネグルの集団は母国ヒムレンと、隣国セヴェルの中間に位置する、亡国の遺跡にたどり着いた。「黒い心臓」は大僧正直轄の部下を集めた特務組織だ。今回の任務に向けて精鋭のみを選び、隣国に気づかれぬよう、最小のチームを組んだつもりだった。  だが遺跡の中心――この破壊された教会の、裏庭の土を踏んだ者はわずかに三人。仮に目的の宝珠(オーブ)を手に入れたとしても、隊の戦力回復は難しかった。  ネグルたちの殆どは孤児で、国すなわち教会から保護された者たちである。中でも才能を持つ者が鍛えられ、秘密裏の任務――密偵や暗殺――を行う組織、黒い心臓に配された。配属を志願した者はいないが、孤児らに選択の余地はないし、仕事の危険さを心配する身内もいなかった。     
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