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それなら私があんな髪型を気に入るはずもないこともわかって欲しかったと私は肩をすくめてから扉を開けた。
私は別にめげてなんていなかった。
ぶたれた頬は確かに痛かった。これから家に帰って落ち着けば、母は天地がひっくり返りでもしたかのように喚いて怒るだろうし、当然、日頃温厚な父も二言三言注意してくることだろう。
そして母は父が私に甘いからこういうことになるんだと今度は父に食ってかかるだろうし、父はそれを受けて困った顔をして謝ることだろう。
そう思うととばっちりを受けた父には申し訳ない気持ちもしたけれど、やっぱり私は自分のしたことに一欠けらの後悔もなかった。
私は私が正しいと思ったことをしたんだと、むしろ堂々と胸を張りたい気分だった。
おかみさんの言うとおり、私は結構な時間待つこととなった。
昔ながらの小さな床屋だったので、カットの椅子は二つしかなく、覗いてみるとその二つの椅子には同じくらい恰幅の良い同じくらいの年の頃のおじさんが座り、おかみさんと旦那さんがそれぞれに付いて、どちらも同じくらい黒々としたいかにも脂っぽい髪を切っていた。カットする方もされる方もみんな顔見知り同士らしく、何事か話に花が咲いてハサミを入れる手が止まるのもしばしばだった。
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