1・マリコの豊かな生活

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 どっと笑い声が上がる度に隣に座っているお爺ちゃんの肩がピクッと反応したけれど、規則正しい安らかな寝息は決して乱れることはなかった。  これは本当に長くなりそうだった。  私は暇つぶしに何か読もうと思って待合室の本棚を目で探った。  少年漫画や週刊誌、何日か分の新聞がそこに雑然と並んでいたのだけれど、どれも私の気に入りそうにはなかった。  漫画はこの店に何年も通っている私がとっくに読破していた物しかなく、それも例え暇潰しにでももう一度読み返したいと思うほど面白い物でもなかった。  かと言って週刊誌に載っている袋とじの開けられたグラビアや芸能人のゴシップ記事、金運を上げる財布や妖艶な美女が誘うようにニコリと微笑む精力剤の広告にも心は魅かれなかった。  がっかりし、私も隣のお爺ちゃんみたいに少し眠ろうかなと思った時に、ふとそのお爺ちゃんの座る椅子の隣に何か雑誌が置いてあるのが見えた。  桜をモチーフにしたピンクと白の可愛らしい表紙に惹き付けられてそっとその雑誌を手に取ってみた。    不動産情報誌だった。  なんで床屋の待合室にそんな物が置いてあったのか、今にして思えば不自然と言えば不自然だった。     
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