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多分、アパートかマンションを探していた店のお客が忘れていったか、邪魔になってそのまま置いていったかしたのだろうけれど、その時の私はそんな疑念など一つも抱くことなく、いい時間潰しを見つけたと思ってほくそ笑んだ。
……それがいい時間潰しだと思った私に対してもちょっと疑問だけど。
ちょうど転入居の激しくなる三月、物件情報はとても潤沢で、刊行した出版社も熱心だった。
ただの貸アパート・マンションだけじゃなく、庭付き一戸建ての中古住宅や都心部にドンとそびえ立つタワーマンションの入札、西洋のお城のような立派な佇まいの建物(破綻したラブホテル跡)に至るまで、ほぼ全面がカラー写真という気合の入りようだった。
おかげで読めない漢字が多かったにも関わらず、私は世の中には色んな家があるものなんだなと感心し、図鑑でも眺めているかのようにすこぶる楽しかった。
そんな風に読み進めたちょうど全体の真ん中あたり、表紙と同じく、桜の白とピンクの二色で大々的に描かれた一際カラフルな特集ページに差し掛かった。
そしてそれこそが私のこの先の人生を左右した……のかしなかったのか、まだ人生の只中にいるのでなんとも言えないところだけど、とにかく私に何かしらの影響を与えた言葉がそこに載っていた。
豊かな生活は日当たりから
これは日当たりの良い物件を特にフューチャーして寄せ集めたその特集のキャッチ・コピーだ。
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