1・マリコの豊かな生活

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 確かに生活は豊かでもなかったし、家の日当たりだってさほど良い方でもない。とは言え格別貧しかったり家庭に不和があったりもせず、今日みたいに小さな嫌なことはたくさんあったけれど、差しあたって暮らしに不満を感じているわけでもないはずなのに……。  私は腕を組んで、不毛か有毛かもわからない様々な想いを巡らせた。  どれ位の時間が経ったのか「マリコちゃん、待たせたね」と、おかみさんが私に声を掛けた時、あの双子みたいにそっくりなおじさん達はいつの間にか帰ってしまったようで、カットをする二つの椅子はどちらも空いていた。  「ずいぶん待たせちゃったけど、大丈夫?疲れてない?具合は悪くないかい?」  ただでさえ変な髪をしているうえに、慣れない考え事のためにボンヤリとしていた私の顔を、おかみさんは心配そうにのぞき込んだ。  「……ううん、大丈夫だよ。ちょっと眠っちゃったみたい」  私は心の揺れを気取られないように努めて明るく言った。  「いつもみたいに可愛くしてよね」  「それはいいけど……本当に何があったんだい?」  「さっきも言ったでしょ?女には色々あるものなの」  「何を一丁前に」  おかみさんは大きく笑いながら私のおでこを小突いた。  私も笑った。  笑ったら少しだけ気分がすっきりしたような気がした。  それでも私は髪を切られている間もずっと先程の言葉が頭について離れず、おしゃべりなおかみさんの話も上の空で聞いていた。 ―― 豊かな生活ってなんだろう? ――     
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