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少しづつ整えられていく髪を鏡越しに見ながら、私はずっと答えを探していた。
お金や物がたくさんあることだろうか?
それともおめかしをして街に繰り出すことだろうか?
あるいは無理にでも自分の娘を可愛らしくすることだろうか?
……よくわからなかった。
そしてそのうち考えるのが面倒になったので、一旦、この問いを保留することにした。
それに、何事か自分で言ったことに対してガハガハと大きな口を開けて笑っているおかみさんを見ていたら、少なくとも難しいことをあれこれ考え過ぎるのは豊かな生活とは言えないなと思った。
帰り際、外に出ようとしたところで私はハッと思い出した。
「そういえば、私と一緒にお爺さんが待っていなかったっけ?」
「あ」
どうやらおかみさんも忘れていたようだ。
二人で待合室を覗くと、あのお爺さんが最初に見た時と寸分たがわぬ姿勢のまま、相変わらず穏やかに昏々と眠り続けていた。
私とおかみさんは顔を見合わせて笑った。
こういうお爺さんみたいにのんびりとした生活を送ることも、多分、豊かな生活の一つの形なんだろうなと私はしみじみ思った。
***
―― 豊かな生活は日当たりから ――
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